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研修レポート

2024年5月22日
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社会人として受け入れてもらうために

「仕事をするならば、知的障がい者はビジネスマナーを身につけておいた方が良い。自分の理解力が足りなくても、マナー面が出来ていると、例えば自分が仕事で困った時に『助けてあげよう!』と周囲の人が思ってくれる。マナー、礼儀がある人には、援助者が現れる。これは仕事を継続していく上では強い」。

ある精神科の先生がおっしゃっていました。なるほど!確かにその通り。特別支援学校でも、最初は身だしなみを徹底します。身だしなみを整え、清潔感があると、職場の先輩や上司に受け入れてもらえる人になります。受け入れられた人は、例えば困った時には助けてもらいやすい。特に新人の頃は、仕事を一人で完結できないため”助けてもらいやすい人”になることは大切です。
身だしなみやあいさつ・ルールを守るなど、人と付き合う上でのポイントを実践出来ることを目指す。仕事のスキルを身につけることも重要ですが、周囲の人たちと良い関係性を作っていくことは、チームで仕事を進めていく場合は必須です。

特別支援学校で教えて実感したことは、体得の難しさです。体得(身につける)は、健常者でも時間がかかるものもあります。知的障がいのある生徒たちが体得することは、さらに時間を要します。彼らが体得するためには、繰り返し練習する時間が必要です。また、指導者が様々な方法で教えられるように、教え方や伝え方の種類を増やす必要があります。生徒の理解度や受けとめ方は多様です。教え方も多様性が求められます。

継続性を持って教える時の私の課題は、私自身がその内容を教えることに飽きないこと。これまで、内容によっては「また同じことを・・・」と魔が差す瞬間も恥ずかしながらありました。これではプロ失格。生徒に失礼な行為です。
飽きを感じてしまった時、私は「この内容が彼らになぜ必要なのか」など、教える目的や意義を自分自身で確認します。目的や意義、必要性が確認できると、「飽きた」という気持ちは消えます。今は教えることに飽きるという感情は、なくなりました。目的や意義を確認することは、指導に対するモチベーションにも大きく影響します。

2024年4月20日
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その7 「わからない」と言う勇気を持つ

「軽い知的障がいと言っても、生徒一人ひとり状況は全く違う。だから正直、私たちもわからないことが多い。日々、手探りで進めています」と、特別支援学校のベテランの先生。
私が「わからないことが多くて、迷います・・・」とグチをこぼした時に、おっしゃっていました。

この一言で、「自分が出来る範囲で授業をやっていくしかないんだ!」と私は腹をくくることができました。
心に留めておくことは、「自分はわからないから、相手を観察し続ける。そして、相手の立場になって、伝える」こと。
わかったふりはしない。わからなかったら、訊く。

この「わからない」「知らない」と言うこと。とても言いにくい世の中になっている、と痛感しています。
特にこの5年くらいで、加速している気がしています。
私自身、「わからないと言っちゃダメ。何とか自分でやらねば!」となっていることが多々あります。
「やらねば」というねばねば病。気づくと、1人で抱えている。
こんな時代だからでしょうか。研修では、みんなの前で質問する人は激減しています。

20年程前の日本では、「1人で出来ないなら、みんなで考えてみよう!」と、おおらかなのんびりした雰囲気がありました。
一方で今は、労働人口が減ったため、1人に与えられる役割が増え、責任も重くなっている。
「世の中の変化が速くて・・・」という話もありますが、世の中が変化することは世の常。
今の変化が速いことは否めません。しかし今は、1人が抱える仕事が多くなり、知らないことが増えるという状況。
知らないことがあり、どうしたら良いのか戸惑うのに、「知らない」と言えない。
結果、苦しくなる。このような悪循環になっているように思います。

「わからない」と言えずに私も苦しくなった経験が多々あるため、今は積極的に「知らない」「わからない」と言っています。
結果、気持ちが楽になりました。苦しさを感じることも少なくなりました。

わからなかったら、教えてもらう。そして丁寧にお礼を伝えればいい。

特別支援学校で教えるシリーズについては、ひとまずここで区切りといたします。
今年度も継続して授業を担当するので、また改めてレポートします。
私自身が多くを学べるこの学校は、私にとってかけがえのない大切な場所です。

2024年3月29日
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その6 生徒が授業に興味を持つしくみを作る

学校の授業だけでなく企業研修の時でも「楽しい!」「面白い」と思ってもらう“しかけ”は必須です。
このしかけの代表的なものとして、例えば
・授業の冒頭に、授業内容に関連する身近な事例を挙げて、この授業(研修)の必要性を理解してもらう
・アイスブレイク(緊張を和ませるためのコミュニケーションや簡単なゲーム)を行う
 *アイスブレイクは、本題とは関連しない・つながらない内容、じゃんけんなどの遊びでも良い 

ポイントは、「本題からスタートしない」こと。
最初に授業(研修)に積極的に参加する環境や気持ちを作る。
気持ちが乗ってきたところで、本題に入ります。

企業研修の場合は、「会社の命令で参加している」という方が大半です。
研修に対して「後ろ向きな気持ち」つまりやる気のない人もいらっしゃいます。
多忙な方も多いのでこれは仕方がない面もあります。
しかし、この後ろ向きな気持ちの人を、少しでも前向きに研修に参加するように
ファシリテーションすることも、講師に求められます。
グループワークを多く行う研修や授業では、やる気がない人がグループにたった1人いるだけで
グループワークの成果にも悪影響を及ぼすからです。
そのため、講師(先生)は研修や授業の環境作りには配慮しているのです。

この環境作りの重要性を私に教えてくれたのは、学校の生徒・学生たちでした。
自分の授業に対する評価は、すぐに彼らの態度に出ます。
生徒や学生は、正直。授業が「面白い」「自分のためになる」と思えば
集中して授業に臨みます。
しかし、授業が「面白くない」「自分にためにならない(気がする)」と思うと
途端に集中力がきれる。寝始めます。
一方で、社会人は面白くない話でも聞いてくれます。
社会人はお行儀の良い人たち。つまらない話でも最後まで聞いてくれます。
ただ、つまらない・役に立たない研修だと、研修に対する評価は下がります。
次の研修の機会はない可能性が大となる。

授業や研修に「興味を持たせる」しくみ作りについて
今回は研修の話が中心になりましたが
「本題からスタートしない」は特別支援学校の授業でも同じです。

2024年3月22日
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その5「伝わっている」と思い込まない

授業が本格的にスタートする前に、校長先生と話す機会がありました。

「授業を進行する中で、生徒とのコミュニケーションで、注意すべき点は何ですか?」と
校長先生に質問をすると
「自分が伝えた内容が、伝わっていると思いこまない」というご回答でした。
例えば、軽い世間話のような会話や、深堀していない内容の会話は
軽い知的障がいがある彼らとも可能。コミュニケーションは成立します。
しかし、少々複雑な話をした際の「わかった?」と確認した時の
彼らの「わかりました」という返答は、「聞きました」という意味の場合が多い。
つまり「理解は出来ていないけれど、聞きました」という意味となる。

「わかりました」=「聞きました」が多いことを留意して
指導を進める必要性を教えていただきました。

この「相手が本当に理解しているか、確認する」という点は、相手が健常者でも必要です。
特に新人に対しての、「わかった?」は禁句にしても良い位です。
相手の理解度を確認する際の「わかった?」という問い。これは便利で使いがちな言葉です。
しかし「わかった?」と訊かれると、わかってなくてもつい「わかりました」とうなずいてしまう。
あるあるです。
また、この「わかった?」という問いは、「どのように答えたらわからない」と言う新人はとても多い。
曖昧な問いで具体的でない質問は答えにくいとのこと。

しっかりと理解させたい内容を教える場合は「1つ教えたら止めて、相手の理解度を確認する」。
相手の理解の確認の言葉がけは、「ここまでの所で、わからないことはない?」と範囲を限定して確認する。
途中で止めて確認するため、時間を要します。
しかし、この丁寧な進め方が、相手の理解度を高めるため、早く身につけることができる。
「急がば回れ」は、教育では必須です。

2024年3月18日
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その4 特別支援学校の先生の様子

前回まで、私が特別支援学校で教えることになったいきさつをお伝えしました。
ここで、今問題になっている、「公立学校の先生の働き方状況」
私が実際に勤務している特別支援学校の先生方について、私の見解をお伝えします。

昨年末(2023年末)もニュースになっていましたが、学校の先生の休職数は増えています。
この休職者数の増加の原因に、「誠実で生徒思いの先生方の善意に甘え続けた結果、頑張り続けた先生が疲れ切ってしまった」。
これがあると、私は考えています。
「生徒のために真摯にがんばり続けている」先生がとても多い。
もちろん、全ての先生がまじめでなはくて・・・例外もいらっしゃるでしょう。
ただ、真摯に頑張り続けている先生の比率は、とても高いと実感しています。

そもそも、まじめで思いやりのある人が、教育を志すことが多い。
今のこの日本の公立学校は、志の高いまじめで思いやりのある先生方の善意でなんとか成り立っています。
しかし、頑張っても報われない状況が続けば、心身共に疲弊し休職、というのは人間ならば仕方のないことです。
疲れ切った状態ではがんばれない。

モンスターペアレンツの話も出ます。
常識では考えられない事を言う保護者は、存在します。
一方で「学校にあれこれ言ってしまう保護者の気持ち」を、私は理解できます。
一般的に、クレームを色々言う人の心の中は、不安な気持ちを抱えています。
先行き不透明で不安要素しかないこの日本で、どうすれば自分の子どもが健やかに育つのか。
親として何をすべきか。特に一人目の時は、不安しかありません。
不安が大きくなれば、大人でも感情的になる。
結果、理不尽なことを言ってしまう。
私も長男の時は不安しかありませんでした。
何事も初めての事は、不安なものです。

では、この状況を改善するためには、どうすれば良いのか。
それは「改善すべきことを一つずつ、現場のみんなで実行していく」。
やはりここからだと思います。そして、情報共有も徹底する。

保護者が出来る事は、子どもについて知らせた方が良いと思うことを先生に伝えておく。
必要なコミュニケーションは積極的にとっていく。
そして、先生を尊重する。
親が先生を尊重すれば、子どもも尊重します。

業務改善については、「昨年よりほんの少し、2%だけど職場環境は改善している」という実感があると、人は前に進むことができます。
関係者全員で、変えた方が良いことは変えていく。
少しずつ改善していく。
改善の歩みを止めない。継続する。

現場の先生方は優秀な方が多いので
業務改革は現場主導で進めた方が良い結果につながると思います。
(現場を知らない人が、口出ししない!)

2024年2月28日
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その3 生徒たちとコミュニケーションをとれるのか?

特別支援学校の授業見学では、通常授業の国語と英語、そして私が担当する(かもしれない)
ビジネスマナーの授業を見学しました。

授業を見学した最初の感想は「私でもコミュニケーションがとれるかもしれない」。
ほんの少しですが希望を感じました。
生徒たちのコミュニケーション能力は「中学1年生程度」と聞いていましたが
実際はそれ以上の生徒もいます(それ以下の生徒もいる)。
「私でも授業は展開できる!かな・・・」とイメージはできました。
(しかし、不安は消えない)

授業見学後には「現状を整理して、条件が合えば応募してみよう!」という気持ちになっていました。
学校見学の前と後では、私の気持ちは180度!変わりました。

無事に選考が通り、4月から私が教えることが決まり、ほっとしたのも束の間、すぐに不安が出てきました。
「カリキュラム、具体的にどうする??」。
学校からのリクエストは、「時代に合ったビジネスマナーとコミュニケーション」。
「これまでの授業内容は気にせず、一新してほしい」
「今の時代、現状に合った授業を展開してほしい」というリクエスト。
これ以外は、ほぼおまかせの状態。
生徒たちの状況をほんの少しわかっただけで、私が全て組み立てなければならない。
さて、何から始めれば良いのか・・・

まずは情報収集、特別支援学校向けの書籍や資料集め。
担当の先生に質問しながら、カリキュラムの素案を考え始めました。
教える対象者の詳細の状況が把握できてない。
こんな状況でのカリキュラム作成は、困難を極めます。でも、やるしかない。
わからないことは質問して、教えていただきながら、少しずつ形にしていきました。

2024年2月21日
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その2 第一印象は「きれいな学校!」

特別支援学校見学の際、校舎に入って最初の感想は、「学校がきれい!」

こんなに清潔感のある学校は初めて見た!と思うほど、掃除が行き届いていました。      学校に清潔感がある理由は、生徒が日々清掃をしているからです。

最初に、この学校の特色である学習コースについて説明します。

2年生から生徒がコースを選択し、授業を受けます。コースは、以下の通り。

➀流通・サービス系列
・ビルクリーニング(清掃)コース
・ロジスティクス(物流)コース

➁事務コース

➂家政・福祉系列
・食品コース
・福祉コース

学校が美しい理由は、ビルクリーニング(清掃)コースの生徒たちが授業で、毎日学校を掃除しているから。ビルクリーニングコースの授業では、清掃のプロの方が授業の中で、効率的な清掃方法についてレクチャーします。生徒は練習として学校を掃除し、清掃のスキルを身につけていくのです。

この学校で学ぶ生徒たちの目標は、卒業後の就労です。                           卒業後に働くために、必要なスキルを学校で身につけます。

それぞれのコースで学ぶ内容についてです。
➀流通サービス系のロジスティクス(物流)コースでは、包装、流通加工中心に、食品の入出荷及びメール便作業の基本、企業からの受注作業ができるようにする。

➁事務コースでは、事務作業の基本の習得を目指す。校内外からの委託作業を受ける、また検定を受け資格取得に向けて学ぶ。

➂家政・福祉系列の食品コースでは、厨房での食器洗浄や食材の下処理や調理、カフェでのドリンク作りそして接客についても学ぶ。福祉コースでは、介護業務の基本知識と技能を学ぶ。

学校見学の際、上記のような学校のしくみや学習環境、学習内容を教えていただきました。詳細の説明がありましたが、私にとっては“初めてづくし”という状況。「何となくわかった」というのが見学後の率直な感想でした。

そして、いよいよ授業見学の時間になりました。

(次回に続きます)

2024年2月13日
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就労を目指す知的障がいのある生徒と共に その1

昨年(2023年)の4月から、都立の支援学校の高等部の生徒たちに             ビジネスマナーとコミュニケーションの授業を教えています。               私が教えている生徒たちは軽い知的障がいのある生徒たち。                軽い知的障がいとは、IQ70位(小学校6年生~中1くらいの知能)です。              実際の所、生徒たちの能力には幅があります。

教え始めて10か月が経過し、各学年一通り授業を行いました。               彼らに教えることについて、ようやく私の中で整理ができつつあります。          (整理できないこと・把握出来ない事の方が、まだ多い)。

教え始めてすぐに思ったことは、「特別支援学校の生徒たちとのコミュニケーションの留意点を整理、そして記録にした方がよい」ということ。                     自分のために整理しようと思いました。

これから7回ほど、シリーズとして、知的障がいのある生徒とのコミュニケーションについてレポートいたします。
「“発達障害のグレーゾーン”の人が7人に一人いる」と言われている今、指導・育成する上での参考にしていただければ幸いです。

最初に、私がこの学校で教えることになった経緯です。
きっかけは、知り合いから「特別支援学校で特別講師の公募がある」と教えてもらったこと。 当初は、「興味はあるが、自分が特別支援学校で教えるイメージが全くつかない」という状態でした。                                          これまで、私は知的障がいのある方との接点が少なく、そもそも関わり方がわからない。そんな私に公募の資格があるのか。                              学校見学の機会があるということで、ひとまず学校へ行ってみることにしました。                               「自分が知らない世界を、知ることができる絶好の機会!自分の勉強のために、まずは学校へ行ってみよう」と直観的に思い、すぐに学校見学の日程を決めました。